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「なんで抱かないんだって言ってんだよ」
すこしつっかかるような言い方を、一護はした。
浮竹は困ったように眉をひそめる。
そして一護の方へ向き直すと
なだめるように優しく名前を呼んだ。
「一護、」
落ち着かせようと手を伸ばす。
一護はそんな浮竹の態度に奥歯を噛み締めると、
その手を掴み引いた。
そしてそのまま雪崩れこむように浮竹の胸に飛込むと、
驚いた表情に変わった浮竹のそれに口付ける。
「…!?」
さらにびっくりして、浮竹は思わず押し返しそうになったが、
必死に深く口付けようとする一護に、
浮竹は、――何を思ったかそれを受け入れるよう口を薄く開いた。
拙いそれは、口付けと呼ぶには幼すぎて。
浮竹が少しでも舌を動かせば一護はビクリと睫毛を震わせる。
洩れる吐息が甘く色付けば、浮竹の手を握る力が強くなる。
ねとっとした水音が響けば、苦しそうに眉根を寄せる。
深いキスなんて、自分からはしたことも無いくせに、
それでも、一護は口付けをやめない。
しかたなく浮竹は、自分から唇を離した。
そして一護の口元を親指で拭うと困ったように微笑む。
一護は不満気な、けれど怯えたような目で、
浮竹をすがるように見た。
「お前なぁ、そんなに震えてたら頼まれたって抱けないだろう」
苦笑しながら一護の頭を撫でる。
一護は浮竹の手を離すと、ばつが悪そうにその優しい視線から逃げた。
「不安…なんだ」
不意に一護が口を開く。
「…優しいから」
ちいさく肩を震わせると一護は俯いた。
「一護…?」
「怖いんだ、わからねえんだよ、あんたは誰にでも優しいから…。
証が…欲しかったんだ。恋人だって証が…。」
一護は浮竹の羽織にシワが出来るほど強く胸元のそれをギュッと、
まるで幼子のように掴んだ。
浮竹は目を見開く。そして少し戸惑ったあと、一護の頭に手を置く。
「バカだな、俺はお前が好きなんだって、何度も言っただろう?」
その手を頬まで下ろすと、こつん、と一護の額に額をくっつける。
「だって…」
潤んだ瞳は今にも零れ落ちそうになっていた。
浮竹は嬉しそうなため息をついて、そして口を開く。
「わかった、じゃあ今度、現世に指輪を買いに行こう」
その言葉に一護は目を見開く。
あふれそうになっていた涙など一瞬で引いてしまった。
そしてそのまま浮竹の肩に頭を預けると一護は、
「ばか」
そう呟いて浮竹の手を握りなおした。
すこしつっかかるような言い方を、一護はした。
浮竹は困ったように眉をひそめる。
そして一護の方へ向き直すと
なだめるように優しく名前を呼んだ。
「一護、」
落ち着かせようと手を伸ばす。
一護はそんな浮竹の態度に奥歯を噛み締めると、
その手を掴み引いた。
そしてそのまま雪崩れこむように浮竹の胸に飛込むと、
驚いた表情に変わった浮竹のそれに口付ける。
「…!?」
さらにびっくりして、浮竹は思わず押し返しそうになったが、
必死に深く口付けようとする一護に、
浮竹は、――何を思ったかそれを受け入れるよう口を薄く開いた。
拙いそれは、口付けと呼ぶには幼すぎて。
浮竹が少しでも舌を動かせば一護はビクリと睫毛を震わせる。
洩れる吐息が甘く色付けば、浮竹の手を握る力が強くなる。
ねとっとした水音が響けば、苦しそうに眉根を寄せる。
深いキスなんて、自分からはしたことも無いくせに、
それでも、一護は口付けをやめない。
しかたなく浮竹は、自分から唇を離した。
そして一護の口元を親指で拭うと困ったように微笑む。
一護は不満気な、けれど怯えたような目で、
浮竹をすがるように見た。
「お前なぁ、そんなに震えてたら頼まれたって抱けないだろう」
苦笑しながら一護の頭を撫でる。
一護は浮竹の手を離すと、ばつが悪そうにその優しい視線から逃げた。
「不安…なんだ」
不意に一護が口を開く。
「…優しいから」
ちいさく肩を震わせると一護は俯いた。
「一護…?」
「怖いんだ、わからねえんだよ、あんたは誰にでも優しいから…。
証が…欲しかったんだ。恋人だって証が…。」
一護は浮竹の羽織にシワが出来るほど強く胸元のそれをギュッと、
まるで幼子のように掴んだ。
浮竹は目を見開く。そして少し戸惑ったあと、一護の頭に手を置く。
「バカだな、俺はお前が好きなんだって、何度も言っただろう?」
その手を頬まで下ろすと、こつん、と一護の額に額をくっつける。
「だって…」
潤んだ瞳は今にも零れ落ちそうになっていた。
浮竹は嬉しそうなため息をついて、そして口を開く。
「わかった、じゃあ今度、現世に指輪を買いに行こう」
その言葉に一護は目を見開く。
あふれそうになっていた涙など一瞬で引いてしまった。
そしてそのまま浮竹の肩に頭を預けると一護は、
「ばか」
そう呟いて浮竹の手を握りなおした。
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一護が雨乾堂に入ると、そこはまるで倉庫のように箱が散乱していた。
その箱の形は様々で、かわいらしいラッピングを施した小さなピンク色の箱もあれば、
細長い紺色の小箱もある。
中でも目立つのは、党のようにそびえる大きな二つの箱だった。
一護はぎょっとしてその箱を見る。
明らかに一護の身長より高いその箱からは、甘い匂いが漂ってきた。
「ああ、一護。すまんな散らかっていて」
浮竹は頭をかきながら箱の影からひょいと顔を出す。
さらりと肩から白い髪が滑り落ちて緑色の瞳が一護を捉えると、
浮竹はその目を細めフッと微笑みを零した。
そんな浮竹の視線が恥ずかしくて一護はもう一度箱の山に目をやる。
浮竹も一護の視線を辿り、そしてちいさく微笑むと言った。
「これか?チョコレートだよ、部下から貰った」
心底嬉しそうな表情で浮竹は語る。
ということはこの二つの大きな箱は、おそらく仙太郎と清音からのプレゼントなのだろう。
それにしても多い。
一護はと言うと、チョコレートを食べたいのは山々だったが、プレゼントはすべて断ってしまった。
義理ならいいのだが本命チョコとなると、なんとなく相手に悪い気がして貰わぬ様にしていたのだ。
そのために、一護は浮竹に送られたチョコレートの山を睨んだ。
浮竹は優しい。きっとこの中には本命チョコもあるのだろう。何故、断らなかったのだろうか。
なんてくだらないことを考える。
いつも二人で雨乾堂にいるときには全く感じないのに、浮竹がどれだけ人に好かれているかを
こんな形で目の当たりにすると、一護の心内はとても複雑であった。
「これ全部喰うのかよ、一人で」
「? もちろん。わざわざ俺にくれたんだぞ? それに折角作ってくれたんだから」
その回答に一護はますます下唇を食む。
後ろ手に隠した小箱をぎゅっと握った。
浅ましいなとは思う。目の前で本当に楽しそうにプレゼントを眺める浮竹をみると、
いかに自分が馬鹿馬鹿しい考えをしているかがよくわかる。
一護は浮竹に「食いすぎるなよ」とだけ言うと、早々にその場を立去った。
「ああ、作るんじゃなかったぜ」
文机に放り投げた箱をわざとらしく忌々しげに睨む。
睨んだところでどうにかなるわけでもないが。
「きっと喜ぶぞ!」なんてルキアが言うから、一緒にチョコレートを作ってはみたものの
結局は渡せずじまいだった。
もうルキアは白哉にチョコレートを渡したのだろうか。それを考えると今からでも渡しに行こうか、
と一瞬考えたものの、しかしもう日も沈んで随分経つ。
それからしばらく悩んだ末、一人で結局食べてしまおうという結論に至った。
箱を開けると、すこし歪な形をしたチョコレートが4,5個、こじんまりと入っていた。
料理なんて、ましてやお菓子なんて簡単に作れるわけがなく。
ルキア曰く、溶かして固めるだけなのに何故お前はそのようなものが作れるのだ。だそうだが、しかしそれでも一生懸命作ったつもりだ。
「柄にもねぇこと、するもんじゃねぇな」
ため息交じりに呟くと、一気にそれを口に放りこんだ。
「いーちーご」
と同時に耳元で囁く声がした。
それは聞き間違うはずもなく、浮竹の声で。
「っ!ふ、ふふぃふぁふぇふぁん!?」
すぐ後ろを振り向けばいつもと同じ微笑を浮かべた浮竹が居た。
驚いて咽そうになる一護を面白そうに浮竹は見つめる。
そういう時の浮竹の顔は、一護には苦手だった。
というよりは直視できなかった。或いは、好き、と言うのかもしれないが。
「飲み込んでから喋りなさい、一護」
苦笑交じりに言うと浮竹は、一護の頭を撫でる。
浮竹は、一見硬そうに見えて柔らかい髪質のその髪を触るのが好きで仕方なかった。
一護は恥ずかしいやら、苦しいやらで、脈打つ鼓動や赤くなる頬を押さえることが出来ずに
俯いてしまう。
「一護? 悪かったよ、脅かせてしまったのはあやまる。すまん」
浮竹の表情が困ったような笑みに変わる。
一護はそれを察して、ごくんとチョコレートを飲み込むと
「大丈夫だから」と咳き込みながら答えた。
「いやすまんな。朽木にな、一護が俺にチョコレートを作った、って聞いたもんだから」
食べにきたんだけれど、そこまで浮竹が言うといよいよ一護の顔が曇る。
そんな一護の変化に気付いて、机の上の空の箱を見やり「あー」と
ため息交じりに意味のない言葉を浮竹は発した。
「食っちまったのか…?」
一護はしょんぼりと瞳を伏せ頷いた。
「だってあんだけプレゼント貰ってんだし…そんなに沢山チョコばっかりあったって、あんたも困るだろ」
拗ねたように少しばかり唇を尖らせて一護は言う。
しばらくきょとんと一護を見つめていた浮竹は、
徐々にその口の両端を持ち上げて、ついにはあはははと声を上げて笑い出した。
「バカお前、そんなことを気にして、折角作ったそれを自分で食べたのか?」
本当に可笑しそうに笑うものだから、一護は恥ずかしさもあって
眉を顰めて浮竹を睨む。
その視線に気付いた浮竹はゴホンと咳払いをすると
まだ顔に残るにやけを振り払おうとはせずに一護を抱き締めた。
「そりゃ、同僚や部下たちから貰えるのはとても嬉しいが、一護、お前から貰うのが、一番嬉しいに決まっているだろう?」
少し体を離して一護を見つめる。離された距離が勿体無くて、
一護は浮竹の胸のあたりをぎゅっと掴んだ。
浮竹はクスッと微笑むとその手を包み込むように自分の手をのせる。
「それに、まだお前のチョコは食べられるだろう?」
その言葉に一護が疑問符を浮かべた瞬間、浮竹は一護の唇に自分のそれを深く重ねた。
その箱の形は様々で、かわいらしいラッピングを施した小さなピンク色の箱もあれば、
細長い紺色の小箱もある。
中でも目立つのは、党のようにそびえる大きな二つの箱だった。
一護はぎょっとしてその箱を見る。
明らかに一護の身長より高いその箱からは、甘い匂いが漂ってきた。
「ああ、一護。すまんな散らかっていて」
浮竹は頭をかきながら箱の影からひょいと顔を出す。
さらりと肩から白い髪が滑り落ちて緑色の瞳が一護を捉えると、
浮竹はその目を細めフッと微笑みを零した。
そんな浮竹の視線が恥ずかしくて一護はもう一度箱の山に目をやる。
浮竹も一護の視線を辿り、そしてちいさく微笑むと言った。
「これか?チョコレートだよ、部下から貰った」
心底嬉しそうな表情で浮竹は語る。
ということはこの二つの大きな箱は、おそらく仙太郎と清音からのプレゼントなのだろう。
それにしても多い。
一護はと言うと、チョコレートを食べたいのは山々だったが、プレゼントはすべて断ってしまった。
義理ならいいのだが本命チョコとなると、なんとなく相手に悪い気がして貰わぬ様にしていたのだ。
そのために、一護は浮竹に送られたチョコレートの山を睨んだ。
浮竹は優しい。きっとこの中には本命チョコもあるのだろう。何故、断らなかったのだろうか。
なんてくだらないことを考える。
いつも二人で雨乾堂にいるときには全く感じないのに、浮竹がどれだけ人に好かれているかを
こんな形で目の当たりにすると、一護の心内はとても複雑であった。
「これ全部喰うのかよ、一人で」
「? もちろん。わざわざ俺にくれたんだぞ? それに折角作ってくれたんだから」
その回答に一護はますます下唇を食む。
後ろ手に隠した小箱をぎゅっと握った。
浅ましいなとは思う。目の前で本当に楽しそうにプレゼントを眺める浮竹をみると、
いかに自分が馬鹿馬鹿しい考えをしているかがよくわかる。
一護は浮竹に「食いすぎるなよ」とだけ言うと、早々にその場を立去った。
「ああ、作るんじゃなかったぜ」
文机に放り投げた箱をわざとらしく忌々しげに睨む。
睨んだところでどうにかなるわけでもないが。
「きっと喜ぶぞ!」なんてルキアが言うから、一緒にチョコレートを作ってはみたものの
結局は渡せずじまいだった。
もうルキアは白哉にチョコレートを渡したのだろうか。それを考えると今からでも渡しに行こうか、
と一瞬考えたものの、しかしもう日も沈んで随分経つ。
それからしばらく悩んだ末、一人で結局食べてしまおうという結論に至った。
箱を開けると、すこし歪な形をしたチョコレートが4,5個、こじんまりと入っていた。
料理なんて、ましてやお菓子なんて簡単に作れるわけがなく。
ルキア曰く、溶かして固めるだけなのに何故お前はそのようなものが作れるのだ。だそうだが、しかしそれでも一生懸命作ったつもりだ。
「柄にもねぇこと、するもんじゃねぇな」
ため息交じりに呟くと、一気にそれを口に放りこんだ。
「いーちーご」
と同時に耳元で囁く声がした。
それは聞き間違うはずもなく、浮竹の声で。
「っ!ふ、ふふぃふぁふぇふぁん!?」
すぐ後ろを振り向けばいつもと同じ微笑を浮かべた浮竹が居た。
驚いて咽そうになる一護を面白そうに浮竹は見つめる。
そういう時の浮竹の顔は、一護には苦手だった。
というよりは直視できなかった。或いは、好き、と言うのかもしれないが。
「飲み込んでから喋りなさい、一護」
苦笑交じりに言うと浮竹は、一護の頭を撫でる。
浮竹は、一見硬そうに見えて柔らかい髪質のその髪を触るのが好きで仕方なかった。
一護は恥ずかしいやら、苦しいやらで、脈打つ鼓動や赤くなる頬を押さえることが出来ずに
俯いてしまう。
「一護? 悪かったよ、脅かせてしまったのはあやまる。すまん」
浮竹の表情が困ったような笑みに変わる。
一護はそれを察して、ごくんとチョコレートを飲み込むと
「大丈夫だから」と咳き込みながら答えた。
「いやすまんな。朽木にな、一護が俺にチョコレートを作った、って聞いたもんだから」
食べにきたんだけれど、そこまで浮竹が言うといよいよ一護の顔が曇る。
そんな一護の変化に気付いて、机の上の空の箱を見やり「あー」と
ため息交じりに意味のない言葉を浮竹は発した。
「食っちまったのか…?」
一護はしょんぼりと瞳を伏せ頷いた。
「だってあんだけプレゼント貰ってんだし…そんなに沢山チョコばっかりあったって、あんたも困るだろ」
拗ねたように少しばかり唇を尖らせて一護は言う。
しばらくきょとんと一護を見つめていた浮竹は、
徐々にその口の両端を持ち上げて、ついにはあはははと声を上げて笑い出した。
「バカお前、そんなことを気にして、折角作ったそれを自分で食べたのか?」
本当に可笑しそうに笑うものだから、一護は恥ずかしさもあって
眉を顰めて浮竹を睨む。
その視線に気付いた浮竹はゴホンと咳払いをすると
まだ顔に残るにやけを振り払おうとはせずに一護を抱き締めた。
「そりゃ、同僚や部下たちから貰えるのはとても嬉しいが、一護、お前から貰うのが、一番嬉しいに決まっているだろう?」
少し体を離して一護を見つめる。離された距離が勿体無くて、
一護は浮竹の胸のあたりをぎゅっと掴んだ。
浮竹はクスッと微笑むとその手を包み込むように自分の手をのせる。
「それに、まだお前のチョコは食べられるだろう?」
その言葉に一護が疑問符を浮かべた瞬間、浮竹は一護の唇に自分のそれを深く重ねた。
何処からともなく、浮竹さんは赤い毛糸を引っ張り出してきた。
適当に丸められたそれは、小さく、
衣服になっていない毛糸なんて触ったこともないから
それが何メートルほどの長さになるかなんてわからなかったけど
浮竹さんはそれをくるくると解き始めた。
「何するんだ?」
丸められたそれを一本の線にかえしてゆく。
絡まった箇所をなれない手つきで、しかし丁寧にほぐす。
オレは癖のついた糸を指に絡めてみる。
「んー、ちょっとな」
そう言い終わると、あの玉が、一本のふにゃふにゃとした線に変わっていた。
浮竹さんは毛糸の端をオレの右手の小指に結び、
そして、「はい」と空いた片方の端と自分の小指をオレに差し出した。
浮竹さんを見上げると新しい遊びを思いついた子どものように
笑顔を浮かべている。
「結べってことか?」
首を縦にふって肯定を表す。
浮竹さんの小指にクルクルと赤い毛糸を巻きつけると、
痛くない程度に、そして抜けないようにキュッと付け根当たりで結んだ。
「ロマンチストというか、幼稚というか…」
オレは小指を見つめてため息を吐いた。
そのため息は幸せ八割、そんな自分に対する呆れ二割で出来ていた。
運命の赤い糸か。
自分の小指に巻かれた赤いそれを見つめ、そして辿った。
くるくると左右に動いた視界が、浮竹さんの小指にとまる。
体は弱いが身長は高い。
一見華奢にも見えるがその小指はオレの小指より少しばかり太い。
すらりと長く、そして白く。赤く細い糸を際立たせていた。
浮竹さんは楽しそうにオレの右手をとる。
「なんかこう、恋人っぽくていいな」
そのままその手を引いて、浮竹さんはオレを抱き寄せた。
石鹸と香の匂いがふんわりと体を包む。
オレは眉間に皺を寄せて浮竹さんを見上げる。
浮竹さんはきょとんとオレを見つめた。
それがおかしくて、いとしくて。
笑みがこぼれないように、皺を寄せたまま言った。
「恋人っぽくて、じゃなくて――」
「ああ、すまん。恋人だったな」
拗ねて見せたオレに悪かった悪かったと微笑みをこぼして、
浮竹さんはオレの頭を撫でる。
そしてどちらからともなくひとしきり笑ったあと、
指先を絡めて深い口付けを交わした。
適当に丸められたそれは、小さく、
衣服になっていない毛糸なんて触ったこともないから
それが何メートルほどの長さになるかなんてわからなかったけど
浮竹さんはそれをくるくると解き始めた。
「何するんだ?」
丸められたそれを一本の線にかえしてゆく。
絡まった箇所をなれない手つきで、しかし丁寧にほぐす。
オレは癖のついた糸を指に絡めてみる。
「んー、ちょっとな」
そう言い終わると、あの玉が、一本のふにゃふにゃとした線に変わっていた。
浮竹さんは毛糸の端をオレの右手の小指に結び、
そして、「はい」と空いた片方の端と自分の小指をオレに差し出した。
浮竹さんを見上げると新しい遊びを思いついた子どものように
笑顔を浮かべている。
「結べってことか?」
首を縦にふって肯定を表す。
浮竹さんの小指にクルクルと赤い毛糸を巻きつけると、
痛くない程度に、そして抜けないようにキュッと付け根当たりで結んだ。
「ロマンチストというか、幼稚というか…」
オレは小指を見つめてため息を吐いた。
そのため息は幸せ八割、そんな自分に対する呆れ二割で出来ていた。
運命の赤い糸か。
自分の小指に巻かれた赤いそれを見つめ、そして辿った。
くるくると左右に動いた視界が、浮竹さんの小指にとまる。
体は弱いが身長は高い。
一見華奢にも見えるがその小指はオレの小指より少しばかり太い。
すらりと長く、そして白く。赤く細い糸を際立たせていた。
浮竹さんは楽しそうにオレの右手をとる。
「なんかこう、恋人っぽくていいな」
そのままその手を引いて、浮竹さんはオレを抱き寄せた。
石鹸と香の匂いがふんわりと体を包む。
オレは眉間に皺を寄せて浮竹さんを見上げる。
浮竹さんはきょとんとオレを見つめた。
それがおかしくて、いとしくて。
笑みがこぼれないように、皺を寄せたまま言った。
「恋人っぽくて、じゃなくて――」
「ああ、すまん。恋人だったな」
拗ねて見せたオレに悪かった悪かったと微笑みをこぼして、
浮竹さんはオレの頭を撫でる。
そしてどちらからともなくひとしきり笑ったあと、
指先を絡めて深い口付けを交わした。
*京→浮一
たまに、いや、気付いてないだけで日常的にかもしれないけれど、
ちょっとしたことで嫉妬してしまうことがある。
たとえば、その人が女子と楽しそうにしゃべってたり、
手を貸したりしているのを見ると、女々しいとは思うけど
なんとも言えない気持ちになる。
だからといって、束縛することなんてしたくない、というよりは無理だ。
まだ部下の女子としゃべっているなら我慢が出来る。
問題は、京楽春水。
あれは一々首をつっこんでくる。
俺が護廷十三隊のなかで一番苦手な男だった。
何もかもお見通しだよ。
あれはそう目で、面白そうにしゃべりかけてくるのだ。
それでいて、俺の神経を逆撫でるように浮竹さんとぴったりくっついて
俺の入る隙を与えてはくれない。
浮竹さんも浮竹さんで、すっかり心を許しているものだから困ったものだ。
俺は一度深く息を吸い込んで、そして目の前の戸に手をかけた。
「失礼します、……京楽隊長」
「おっと、一護ちゃんじゃなァい。珍しいねェ。おつかい?」
中に入ると、締め切られた部屋は煙で満たされていた。
一瞬そのにおいにうっと喉を詰まらせる。
しかしすぐに、それは京楽の手に握られた細い煙管から
たちこめていることに気がついた。
珍しくどっかりと、隊首室のその椅子に座った京楽は面白そうに俺を見やると、
おちょくるようにそう言った。
意識せずとも眉間に力がこもる。
「そんなに威嚇しないでよォ、そんなにボクってこわいかなァ」
うーん、そう唸ると、顎に手を当てて大げさに考え込む仕草をする。
俺は、もう一分一秒でもここに居ることが嫌だったために、
京楽を無視してツカツカと目の前まで歩き、
そしてばらばらとまとまりなく書類が散らばる机の上にもって来た書類を放り投げた。
「あんた宛だ。…、んじゃ」
その書類についてなんの反応も示さないため、俺は踵を返した。
「ちょっとまったー」
「んだよ」
部屋を出ようとした瞬間に話しかけられて、
不機嫌に振り向いた。
「一護ちゃん、ボクさァ、君がうらやましくてしょうがないんだよ」
何のことを言っているのかわからず、俺は首をかしげる。
一体何がうらやましいと言うのだろう。
意図がわからず京楽を見ると、それは小さく微笑んで口を開いた。
「浮竹ねぇ、君の事ばっかり嬉しそうにしゃべるんだよ。
昨日は一護がまんじゅう買ってきてくれたんだ、とか
明日は一護と一緒に、清音に教えてもらった甘味処に行くんだ、とか
俺のために任務サボって飛んできて処分くらった、…とか」
上げられた事柄がすべて事実だったために、
俺はびっくりして京楽を見つめる。
京楽は煙管の煙をくゆらせながら俺の驚いた顔を満足気に見た。
「ねぇ、一護ちゃん。浮竹がこんなに毎日楽しそうだったことって、
学院時代…いや、ボクと知り合ってからもうかなりの時間が経つけど
きっとないよ」
「京楽さん…あんた…」
京楽は人指し指を自分の唇に当てて微笑んだ。
内緒だよ。
そう、目が俺に語りかける。
俺は口を噤むしかなかった。
「だからねぇ、一護ちゃん。あれを任せたよ。」
そういいながら、右手を小さく上げてひらひらと俺に手を振った。
吐く息が白い。
闇にぼうっと浮かび上がる様は
美しいというよりは、うっとおしく感じた。
日が沈んでからもう随分過ぎた気がする。
むしろそろそろ日が昇る頃ではないだろうか。
スッと雨乾堂の扉を開く。
中には布団が一組敷かれており、
その布団の中では一護が小さく寝息をたてていた。
中にはいらずに、そのまま扉を閉める。
俺はその場に座り込んだ。
雨が降っている。
それはしとしとと空から地上まで落ちてきて、
そしてその殆どは、目の前の池へと溶けていった。
片膝を立てて片足を伸ばす。
すると伸ばした足の脛の辺りにその雨が落ちてくる。
雪が降るにはまだ早い。
けれどそれは劣らぬほどに冷たくて。
雨の日は駄目なのだ。
一護を見ていても、すぐにそこに海燕がだぶる。
海燕に一護に対するような感情は持っていなかった。
ただ、部下として、仲間として、それは本当に大切な男だったと思う。
命を懸けた職に就いているのだから、仲間一人の死でそこまで思い悩むなど、
きっと俺には向いていないんだろう、死神なんて。
少し雨が強くなった。
吐く息は相変わらず白い。
見上げても刺すように降ってくるそれ以外何も見えない。
「浮竹さん?」
その声にビクリとして横を振り返る。
一護が障子からひょいっと顔だけだして俺の様子を窺っていた。
「なんだ、どうした?」
夜中に目を覚ました幼子をあやすように問う。
「そりゃこっちの台詞だぜ、何してんだよ風邪引くだろう」
一護は怪訝そうに眉を顰めた。
そして視線を俺の足に移動させ、そしていっそう眉根の皺を深くする。
一護の顔を見て思う。
一護が、海燕、お前と同じような状況に陥ったら
俺は、俺の誇りを貫き通せると思うか?
海燕が頭の中で笑う。
"あれを自分の手で護りきることが、今のあんたにとっての誇りじゃないんすか?"
何を判りきったことを。
そう笑う。
「浮竹さんッ!」
耳がきぃんとした。
一護がこの上ないほどの目つきで俺を睨んでいる。
どうやら耳元で叫ばれたらしい。
「ったく。何ぼーっとしてんだよ。とにかく寝ようぜ」
一護が俺の手を引っ張る。
その手も、俺の手のように冷たくなっていた。
それが愛しくて。
思わずその手を強く引いて、その体を抱き寄せた。
戸惑う一護などお構いなしに、
もうなくさないようにと、その肩に顔を埋めた。
闇にぼうっと浮かび上がる様は
美しいというよりは、うっとおしく感じた。
日が沈んでからもう随分過ぎた気がする。
むしろそろそろ日が昇る頃ではないだろうか。
スッと雨乾堂の扉を開く。
中には布団が一組敷かれており、
その布団の中では一護が小さく寝息をたてていた。
中にはいらずに、そのまま扉を閉める。
俺はその場に座り込んだ。
雨が降っている。
それはしとしとと空から地上まで落ちてきて、
そしてその殆どは、目の前の池へと溶けていった。
片膝を立てて片足を伸ばす。
すると伸ばした足の脛の辺りにその雨が落ちてくる。
雪が降るにはまだ早い。
けれどそれは劣らぬほどに冷たくて。
雨の日は駄目なのだ。
一護を見ていても、すぐにそこに海燕がだぶる。
海燕に一護に対するような感情は持っていなかった。
ただ、部下として、仲間として、それは本当に大切な男だったと思う。
命を懸けた職に就いているのだから、仲間一人の死でそこまで思い悩むなど、
きっと俺には向いていないんだろう、死神なんて。
少し雨が強くなった。
吐く息は相変わらず白い。
見上げても刺すように降ってくるそれ以外何も見えない。
「浮竹さん?」
その声にビクリとして横を振り返る。
一護が障子からひょいっと顔だけだして俺の様子を窺っていた。
「なんだ、どうした?」
夜中に目を覚ました幼子をあやすように問う。
「そりゃこっちの台詞だぜ、何してんだよ風邪引くだろう」
一護は怪訝そうに眉を顰めた。
そして視線を俺の足に移動させ、そしていっそう眉根の皺を深くする。
一護の顔を見て思う。
一護が、海燕、お前と同じような状況に陥ったら
俺は、俺の誇りを貫き通せると思うか?
海燕が頭の中で笑う。
"あれを自分の手で護りきることが、今のあんたにとっての誇りじゃないんすか?"
何を判りきったことを。
そう笑う。
「浮竹さんッ!」
耳がきぃんとした。
一護がこの上ないほどの目つきで俺を睨んでいる。
どうやら耳元で叫ばれたらしい。
「ったく。何ぼーっとしてんだよ。とにかく寝ようぜ」
一護が俺の手を引っ張る。
その手も、俺の手のように冷たくなっていた。
それが愛しくて。
思わずその手を強く引いて、その体を抱き寄せた。
戸惑う一護などお構いなしに、
もうなくさないようにと、その肩に顔を埋めた。