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何処からともなく、浮竹さんは赤い毛糸を引っ張り出してきた。
適当に丸められたそれは、小さく、
衣服になっていない毛糸なんて触ったこともないから
それが何メートルほどの長さになるかなんてわからなかったけど
浮竹さんはそれをくるくると解き始めた。


「何するんだ?」


丸められたそれを一本の線にかえしてゆく。
絡まった箇所をなれない手つきで、しかし丁寧にほぐす。
オレは癖のついた糸を指に絡めてみる。


「んー、ちょっとな」


そう言い終わると、あの玉が、一本のふにゃふにゃとした線に変わっていた。
浮竹さんは毛糸の端をオレの右手の小指に結び、
そして、「はい」と空いた片方の端と自分の小指をオレに差し出した。
浮竹さんを見上げると新しい遊びを思いついた子どものように
笑顔を浮かべている。


「結べってことか?」


首を縦にふって肯定を表す。
浮竹さんの小指にクルクルと赤い毛糸を巻きつけると、
痛くない程度に、そして抜けないようにキュッと付け根当たりで結んだ。


「ロマンチストというか、幼稚というか…」


オレは小指を見つめてため息を吐いた。
そのため息は幸せ八割、そんな自分に対する呆れ二割で出来ていた。
運命の赤い糸か。
自分の小指に巻かれた赤いそれを見つめ、そして辿った。
くるくると左右に動いた視界が、浮竹さんの小指にとまる。
体は弱いが身長は高い。
一見華奢にも見えるがその小指はオレの小指より少しばかり太い。
すらりと長く、そして白く。赤く細い糸を際立たせていた。
浮竹さんは楽しそうにオレの右手をとる。


「なんかこう、恋人っぽくていいな」


そのままその手を引いて、浮竹さんはオレを抱き寄せた。
石鹸と香の匂いがふんわりと体を包む。
オレは眉間に皺を寄せて浮竹さんを見上げる。
浮竹さんはきょとんとオレを見つめた。
それがおかしくて、いとしくて。
笑みがこぼれないように、皺を寄せたまま言った。


「恋人っぽくて、じゃなくて――」

「ああ、すまん。恋人だったな」


拗ねて見せたオレに悪かった悪かったと微笑みをこぼして、
浮竹さんはオレの頭を撫でる。

そしてどちらからともなくひとしきり笑ったあと、
指先を絡めて深い口付けを交わした。
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