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「視力悪くなるんじゃねぇか?」


ふと、顔を上げて一護が呟く。
視線の先には浮竹がいた。
浮竹は、何が?と目を少し大きく開いて顔で問う。


「前髪」


一護は布団の中から温まった手を出すと、
浮竹の横髪を撫でた。


「そう…か?」


うーん、そう呻いて前髪をかきあげる。
枕には白髪が散らばっていた。


「いっそのこと、すぱっと短くしようか」


自分の頭から手を離して、
一護の短い髪に手を伸ばし、それを弄びながら呟く。
その言葉に一護はドキリと目を見開く。


「い、いや、いいよ、冬は寒いし、首とか!それにほら、えーっと…」

「長いほうが好き?」


浮竹に本心を突かれて恥ずかしくなり目をそらした。
そんなこと、面と向かって言えないから
わざわざ他の理由を探したというのに。
当の浮竹は意地悪で言ってるわけではなく。
それが余計に、なんとも言えない恥ずかしさを煽る。

恥ずかしさからか、うう、と小さく呻く一護を
愛おしげに見つめて、浮竹は一護の頭に伸ばした腕を
一護の背中に回した。


「一護がこの方がいいって言うなら切らない」


そう言ってギュッと一護を抱き寄せる。
触れる素肌が温かい。
せっけんの匂いがした。
一護は浮竹の胸に顔を埋めて、小さく呟いた。


「長いほうが、いい」
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他人が食べているものというものは、
なんとも美味しそうにみえる。


「お!うまそうな豆大福じゃないか」


一護の手に豆大福を発見して、
嬉しそうに浮竹は目を輝かせた。


「あ…浮竹さんごめん、これ最後の一個…」


あまりに目を輝かせるために、
一護はすこし言い辛そうに浮竹から視線をそらす。


「…そうか…」


わかったとたん、浮竹はがっくりと肩を落とした。
ワザとやっているわけではないのだが。
一護はなんともいえない罪悪感にかられ、
浮竹に豆大福を渡す。


「いいよ喰えよ。いつでも買えるし」
「ほんとうか!ありがとう一護」


浮竹は再び目を輝かせる。
そんな浮竹に内心苦笑しながら、
しかし一護はそんな浮竹の素直なところが好きでたまらなかった。
浮竹は豆大福を少し見つめた後、
何を思ったかそれを半分にちぎった。


「はい、一護。あーんしろ」


にこにこと、しかし真面目にそんなことを言うんだから
恥ずかしいったら、たまったもんじゃない。


「いいいいいい、いいよ、全部喰ってッ」


目の高さにある大福を見ながら言う。


「もとはといえばお前のなんだから、遠慮するなって。ほら」


あーん、そう呟いて浮竹は楽しげに眉を上げる。
またしょんぼりされても困るため
一護は仕方なく回りに人が居ないか確認すると、
口を開いた。


「…あーん」


浮竹が一護の口に豆大福を入れる。
一護がもぐもぐと口を動かしたのを確認すると、
浮竹も満足げに半分になった豆大福を口に放り投げた。


「頼むから喉に詰まらせるなよ」
「名前で呼んで欲しいな」
「え?」
「名前で呼んで欲しい」
「名前って…」

「"浮竹さん"じゃなくて、」
「…十四郎…さん?」

「なんか違うな」
「確かに…違う」
「現状維持でいいか」
「べつにオレはかまわねぇけど」
「いいや、余計お前との距離が離れた気がするからやめよう」

「じゃあ、"浮竹さん"」
「ああ、やっぱりそれがいい」

「浮竹さん」
「黒崎?」
「なんで苗字なんだよ」
「冗談だよ、怒るなって。一護」
長い白髪を一房取って、浮竹さんを見上げた。


「ん?」


どうした?、そうすこし掠れた声でオレに問いかけた。
この人ほど優しい笑顔が似合う男がいるだろうか、
そう、いつも思う。
その笑顔を独占できる時間は、嬉しくてたまらない。
本当はもっと、甘えたい、とは思う。
けれどそんなことオレに出来るわけがなく。
こういうとき、変なプライドや恥ずかしさが疎ましくて仕方ない。
精一杯、できることはだた、
自分から触れるだけのキスをすること。

すこし首をぐぃっと伸ばすと、
浮竹さんの唇にほんの少しだけオレの唇が重なった。


「甘えたさんだな」


オレの好きな笑顔で視界が埋まる。
自分が一体どんな顔をしてるかは想像したくないけれど、
ただこの一瞬が永遠になればいい。
なんて、女々しいことを考える。
額と額がこつんと合わさる。


「そんなに拗ねるな」


視線を合わせない一護に苦笑して、
額を一瞬離し、
そしてその一護の額に唇を寄せた。


「愛してる」


小さく呟いて浮竹が唇を離すと、
一護は視線をゆっくりと上げて、
気恥ずかしそうに口を開く。


「知ってる」


その言葉に浮竹は目を細めて微笑んだ。
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