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必死にその言葉だけ吐き捨てると、
コツンと浮竹の胸に額を寄せた。

言いたいことは山ほどあるのに、喉を通ればに嗚咽に変わる。

そんな一護の態度に、浮竹は少し驚いたような顔をして、
そしてフッと笑みを零すと包み込むように一護を抱き締めた。




「すまん、お前がそこまで俺を想っていてくれてたなんて、気がつかなかった」

「ふざけんなばか…、本気じゃなかったら男となんか付き合えっかよ」




くぐもった、か細く震えた声が、
空気を伝わり、皮膚を伝わり、浮竹の耳へと届く。
抱き締める力を強めるとよりいっそう、
呼吸をする音や、脈を打つ振動が近づく。

ただ純粋に、どうせなら、このまま一つになってしまえればいいのにと思った。



じんわりと温かさが伝わってくるこの皮膚や、
一見、硬そうにみえるが軟らかいオレンジ色の髪、
体中を駆け巡る血液さえも、


自分のものになってしまえばいいのに、と、そう思った。
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恋を、
恋をしたのはいつ以来だろう。

思えば学院に居た頃以来かもしれない。

この仕事についてからは、
人を、 恋愛、という意味で愛さないようにしてきた。

それは自分のためでもあり、
こんな体の自分を好いてくれる相手のためでもあると思っていた。
だいたい自分は恋愛やそれに関することに淡白なほうだと思っていたし、
実際これまでもそうだった。
現に恋人など居なくてもまったく問題なくこの長い歳月を過ごしてきた。

京楽に言えば病気なんじゃないか、とからかわれるけれど。

もしかしたら恋することや愛する感情すら、その途方もない時間の中で
忘れてしまっていたのかもしれない。

なのに。

自分の年齢の、半分、いやもっとそれ以上、
埋めようとも埋めきれぬ永い時間の差。
それほど歳の離れたこの少年に、

恋愛感情を、もってしまった。


「すまん、悪かった。もういいから部屋に戻れ」


いい返事など、期待していない。
きっと明日には、彼は十三番隊を抜ける。
それでいいんだ。
嫌いだと明言してくれれば、自分は楽になれる。
そう思っていたのに。


「…、本当にオレのこと好きなのか?」


その言葉に少しだけ期待が高まってしまう。


「ああ。俺は…本気だ」


むなしく微笑む。
言葉にするたび自覚する。
目の前の彼をどんなに好きなのか。
口に出すたびに何かが胸を突く。
頭では自分を嘲笑う。

彼が口を開く。



「…オレは―――」


そうしていつの間にか自分はそれを引き寄せ、
ただ、ただ本当に何もせず夜明けまで抱き締めた。
「ああ、参ったな…」
「?」
「キノコを逃しちまった」
「キノコ?」

「ああ、アレは時折手足を生やして消えてしまうんだよ、
いつも俺の味噌汁の中から消える」
「トマトの間違いじゃねぇか、あれはいつの間にか羽を生やして飛んでいく」
「いいや、たしかにキノコだ。なにせ俺のボタンが一つない。もぎ取られた」

「それを言うならあんたの体温もすこしばかり低い」
「それはお前に熱を半分分けたからだよ。指先だけはじわじわ熱い」

「じゃあ、どうキノコを捕まえる?」
「そうだなとりあえず――」
「ボタンを直す?」

「いいや、とりあえずお前を抱きしめられたら体温くらい元に戻るだろう」
「そしたらオレの体温が下がっちまう。まだ今日は何も食べていないのに」
「けれどそのまま離れなければ下がらない。玉子焼きなら作れるさ」

「じゃあキノコはどうする。捕まえないのか。あれは意外と素早いぜ」
「キノコは無くても生きていける、しかしお前が無くては生きられない」

「そんなにオレは重要なのか、トマトよりも」
「そうトマトよりも。
――お前がいないと冷たくなってしまうよ、シチューもカレーもラーメンも」



「その体も?」

「そう、この体も」

「なら仕方ねぇな」

「そうだ、仕方ない」
抗議の声をあげようとした瞬間浮竹に抱き寄せられて、
喉まで出掛かった声を飲み込んでしまう。


「そうだ、それがいい」


一人で納得する浮竹をなんとか止めようとするが、
抱きしめられた上に何とも楽しそうなその声を聞くと、
まるで否定の言葉が浮かんでこない。


「一護はどうだ?」


ふと、自分だけが突っ走っていたことに気が付き浮竹が一護に問う。
少し体を離して、苦笑まじりに"やっぱりダメか?"という目で一護を見る。
そんな目で見られては、従うしかない。


「…あんたの好きなようにすりゃいいだろ、
 それであんたが満足するなら、…俺は、べつに…」


恥ずかしそうに目を反らして言う。
浮竹はその返答に嬉しそうに目を細めた。


「…一護、」


愛おしそうに名前を呼ぶと、一護の頬に手を添える。
冷たいそれにびっくりして、一護が視線を浮竹に戻した瞬間、
浮竹は触れるだけの口付けを、一護に送った。
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